木村秋則さんが人生をかけて取り組んだ無農薬林檎作りの壮絶な話
木村秋則さんのことを知ったきっかけは、「ローマ法王に米を食べさせた男」という書籍だった。昨年読んだこの本の中で、無農薬の米作りを指導する木村さんのことが書かれていた。なんでも、初めて無農薬の林檎作りに成功した方らしい。
ローマ法王に米を食べさせた男 過疎の村を救ったスーパー公務員は何をしたか?[Kindle版] | ||||
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興味を持ち、ネットで検索したところ、すでにかなり有名な方だった。書籍を購入したのは、昨年のことだったが、ずっと読めないままでいた。今年になって、その木村さんのお話が映画になると知った。書籍と同じ「奇跡のリンゴ」という題名だ。
奇跡のリンゴ 「絶対不可能」を覆した農家 木村秋則の記録[Kindle版] | ||||
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映画を見る前に話を知りたいと思い、目を通した。その内容は、書籍の表紙で満面の笑みを浮かべる木村さんの笑顔とは裏腹に、壮絶なものだった。
そもそも林檎作りは農薬があったとしても非常に難しい
これは、「奇跡のリンゴ」を読んで初めて知ったことだが、現在、日本で売られている林檎の栽培は非常に難しいものだ。林檎農家では、県などが作る「防除暦」に従って、時期に合わせて種類の異なる農薬を使って、害虫や病気から林檎の木を守り、育てている。
ただ、漫然と同じ種類の農薬を撒いているだけではないのだ。防除暦に従って、適正な時期に、定められた種類の農薬を撒く必要があり、それを無視すれば、効果が発揮できなくなってしまう。
できるだけ農薬を使いたくないというのは、誰もが考えることだろう。人体への影響だけでなく、毎年、大量に使われる農薬の費用は、経済的な負担にもなる。それでも、誰もが農薬を使って林檎栽培を行っているのは、農薬無しでの林檎栽培は事実上不可能とされているからだ。
現在、我々が口にしている大きく甘い林檎は、品種改良の賜物だ。原種とは大きく異なる。野生種なら、そもそも人手を介さずに育っていたものなのだから、農薬など無しでも育つだろうという理屈も成り立ちそうだが、現在の林檎は「人工」と言っても過言で無いほどに人の手が加わっているのだ。
木村さんは、誰もが信じて疑わないこの常識を覆そうとしたのだ。その達成には、8年かかり、苦労のあまり死のうとしたこともあったのだ。
バブル絶頂期、林檎が「金のなる木」と言われた時代に全てを投げ打って取り組んだ無農薬林檎の栽培
木村さんが無農薬の林檎栽培に取り組んだのは、ちょうど、バブル絶頂の時代。皆が経済的に豊かになり、生活水準もどんどんと向上していったときで、林檎農家も経済的に大変潤った。
だが、木村さんの無農薬林檎の栽培は、いつまで経っても成功の兆しが見えない。生活は困窮を極め、木村さん自身が精神を蝕まれていったことは想像に難くない。
辛いのは極貧生活だけでは無い。田舎には閉鎖的な社会がある。狭い人間関係の中で、一人で反旗を翻し、皆の静止も聞かずに林檎栽培を続けることは容易ではないのだ。
書籍からも大変さは伝わってきたが、やはり映画は視覚的に訴えるものがあるため、木村さんの苦しさが現実的なものとして、強く感じられた。本当に良く続けたものだと。
無理を続ける木村さんを止めようとする周囲の人々。しかし、木村さんから出た一言が重い。
「私が林檎の無農薬栽培を諦めるということは、人類が諦めるということなんだ。」
これは、大袈裟な言葉では無いだろう。結果的に、木村さんが無農薬栽培に成功するために、8年という歳月を要したのだ(栽培の成功後も、さらに試行錯誤は続く)。成功の保証もないのに、誰が他にこんなことをできただろうか。
人類の未来を考えた木村さんの大きな視点
これほどの努力の末に、まさしく奇跡のような無農薬の林檎栽培に成功した木村さんは、近年では、国内外で無農薬無肥料の農業指導を行っている。そして、収穫量が安定してきたら、できるだけ価格を抑えるようにと助言しているのだという。自身が作った林檎も、必要以上の高値にはしていないのだそうだ。
木村さんは、無農薬栽培をブランド化しようとは考えていない。そうしてしまうと、それが特別なことになってしまうからだ。かつてアメリカや旧ソ連で行われた大規模農法地帯は、現在ではどんどん砂漠化しているという。
大規模農法の影響を語るまでもなく、自然破壊によって生まれているとされる地球温暖化の問題は、誰もが知っていることだ。自然に逆らい、畏敬の念を忘れた結果なのではないだろうか。
無農薬無肥料が一般化すれば、自然を破壊して得るのではなく、自然と共生して、その産物をいただくという考え方になるのではないか。木村さんはそこまで考えているのだろう。
木村さんのいま
木村さんの活動は、ご自身のウェブサイトで知ることができる。
木村さんは、木村興農社ができて、マネージャーが着任するまで、自然栽培普及のための講演や農業指導は、ほとんど無料で行っており、移動や宿泊にかかる費用までも個人負担していたそうだ。
苦行のような苦労の末に掴んだ成果なのだから、経済的な豊かさを求めても良いのではないかと思う。しかし、木村さんは、お金を得ることが利益なのではなく、自然栽培への取り組みこそが、真の利益と考えているのでは無いだろうか。もちろん、その利益とは、個人的なものではなく、全人類の利益という大局的なものだ。
木村さんの活動は、徐々に実を結んでいる。ハミングバードも、そんな結果の一つだ。こちらでは、木村さんの自然栽培に賛同した方達が作られた、美味しい野菜などを通販で購入できる。早速、購入してみたが、大変美味しかった。これからも購入してみようと思う。
「奇跡のリンゴ」は、書籍、映画とも老若男女におすすめできる良作
木村さんが無農薬の林檎栽培をどのような過程を経て成し得たかは、是非、書籍や映画で確認して欲しい。書籍は、Kindle版も出ており、非常に安価に購入できる。
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すでに、ほとんどの映画館では、映画「奇跡のリンゴ」の上映は終わっているが、岐阜県可児市の可児市文化創造センターで開催される「アーラ映画祭」にて、2013年10月13日(日)に上映される予定だ。中部圏にお住まいで、すぐに映画を見たい人には、こちらがおすすめだ。